集団的自衛権の限定的行使を認めるるなどした、安全保障関連法案が本日未明に可決、成立しました。
限定的行使とはいえ、日本の歴史の中で、大きな転換点となりました。

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大阪・南海なんば駅前の、反対派による集会

ここ数日、国民の間では賛否両論、様々な場でデモや集会が開かれ、その中身は別として議論が活発に行われました。
しかしながら、いまだに「戦争法案」「徴兵制」などといったデマが飛び交う現状であります。
国民の理解が得られていない、という世論調査の結果や国民の声がある、と言いますが、果たして理解しようとしているのでしょうか?
正しく理解しようとすれば、恐らく安保法案の必要性がよくわかると思います。
国際情勢の変化、中国の脅威、朝鮮半島の不安定さ、集団的自衛権の必要性・・・。

安保法案の中身を知れば知るほど、戦争を抑止する法案だということに気付くはずなのです。
反対派はそうなるのがわかっているから理解しようとしないのか、それはわかりませんが、そう思われても仕方のない言動を繰り返しているのは事実です。

安保法案は成立しましたが、当ブログでは引き続き、安保法案を安全保障論の観点から解説していきます。
というのも、安保法案が可決したら、安全保障の議論は終わり、ということは絶対にあってはならないからです。

日々、安全保障の状況は変わります。国会のみならず、国民の間でも国を守るとはどういうことなのか、そのことを考え続けてもらいたいと思います。
その意味では、今回の安保法案を巡る様々な議論は、中身を別として、とても有意義なものになったのではないかと考えます。

今回は勢力均衝論から見た、安保法案としてお送りします。
言葉は非常に難しく感じますが、意外とわかりやすい考え方です。

勢力均衝メカニズムという考え方があります。これは、大国の共通行動の枠組みとして発展したもので、均等な国力を持つ大国同士が、国際システムを形成することであります。
この大国の間で秩序維持に関する協調が成り立てば、国際秩序の安定がもたらされる、という考え方です。

実際に、国連の常任理事国や、G7(G8だったが、ロシアが現在は承認されていないため)のような大国同士の共同体が。勢力均衝メカニズムにあたります。
このメカニズムの最大のメリットは
「一国の覇権行動を抑制するために、他の大国が大国間のバランスを維持するための協力と、外交、同盟、大国の役割、戦争などをめぐるルールを共有すること」にあります。

現在の国際情勢に例えてみると非常にわかりやすいでしょう。
中国は海洋進出を図り、東南アジアへの覇権行動に出ています。ロシアに関してはご存知の通り、ウクライナへ侵攻し、クリミアを自国の領土にしてしまいました。
これらのいわゆる帝国主義的な行動を、同じ国力を持った大国同士が監視しあって、抑制していくという考え方です。

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しかし、これらは残念ながら、現代において機能していないことが以下のことから鮮明にわかります。
この勢力均衝論は「平和」の実現が目的ではなく、主権国家システムの維持による「安定」が狙いと定義づけされています。
さらに弱小国の分割や、領土獲得のための戦争などが許されているなどと主張されています。

この点においては、中国やロシアの手法が明らかに勢力均衝論の枠組みで動いていることが明白にわかります。
表向きにはこのような手法を取っているなどとは当然言いません。国際ルールの枠組みの中で、いかに覇権国家であるべきかを日々考えて行動している証になるのではないでしょうか。

以上のことから、推測できるのは勢力均衝メカニズムはもはや崩壊している、ということです。
これまで大国の一員として、または世界の警察官として、国際ルールの中心的プレーヤーだったアメリカが、このメカニズムに欠陥を与えました。
やむを得ないとはいえ、アフガン撤退、イラク復興の失敗、対テロ戦の成果、どれをとってもアメリカの軍事作戦は成功とはいえない結果に終わりました。
その結果、国力の低下とまではいいませんが、アメリカの軍事的プレゼンス、ならびに政治的なパワーは衰えが目立ちます。
それが中国の台頭を生み、ロシアの暴走を許した側面は否めません。あえて今回、勢力均衝論を持ち出したのは、このメカニズムが崩壊しつつあるからです。

かつては「相互核抑止」という枠組みで、このメカニズムは機能していました。核戦争が現実味を帯びた冷戦時に絶大な効力を発揮して、核戦争を回避した時代もあったのです。核戦争=世界の破滅、を意味していますので、国家システムの維持という目的に各国が合致したのです。

では核戦争の危機がある程度回避されつつある現代において、自国を守るために、今後どのような枠組みが重要視されるのか。

それは同盟です。

同盟とは
「ある国が自衛力のみによる防衛に不安を感じた場合に、集団的自衛権に基づいて他国と共同防衛を行うことを定めるものである」
と定義されています。

まさに今、安保法案で話題になっている集団的自衛権という言葉が出てきました。均衝メカニズムが崩壊した今、国家を守り、平和を維持するには同盟関係の強化が必要不可欠なのです。反対派の皆さんにはこの部分を理解していただきたい。日本一国で、国民の命を守ることは不可能なのです。そんな時代ではありません。
日本はアメリカと同盟関係を結んでいます。不思議なことに長い同盟の歴史の中で、集団的自衛権がこれまで機能していなかったのです。
とてもいびつな同盟関係だと言える事ができます。

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さらに
「同盟は外部の仮想敵国の脅威を前提とするが、共通の仮想敵国が存在する場合には、同盟関係は強固になる」
とされています。同盟を結ぶということは、仮想敵国があってのものなのです。
それは冷戦期なら、ソ連。現代ならどこにあたるのでしょうか。皆さん自身で考えてみて下さい。

同盟には2国間で結ぶ同盟もあれば、多国間で結ぶ同盟もあります。
NATO(北大西洋条約機構)はヨーロッパ諸国の同盟で、2国間の日米安全保障条約と原理的には同じであります。
共通するのは、外部の敵から共同して防衛にあたるという目的で、形成されたということです。

以上の点を踏まえて、日本に目を向けてください。
また少し、視点が変わったように思えませんか?私はただ、国際論を交えて問題提起をしたにすぎません。しかし、どれも国際的には当たり前の、ごく自然な議論なのです。

日本国内だけ、平和というものは勝ち取るものだという認識が薄いのです。
これからの時代は当たり前のように、平和が訪れる世の中ではありません。
戦争、テロ、領土の侵犯、自然災害・・・。危機は色んなところに迫っています。
もしかすると、我々は気付いていないだけで、歴史の転換期の中で生きているのかも知れません。
それは日本の危機なのか、第3次世界大戦の危機なのか。それほど現在の国際情勢は緊迫した状況に包まれています。

今回の安保法案に含まれる、集団的自衛権は限定的な行使に留められています。
先ほど述べた、同盟の枠組みの中での集団的自衛権の行使にはほど遠い機能に限られます。
それでも、中身のない反対論が行き交う、日本の国民レベルの言論は果たして日本のためになっているのでしょうか?

今回は勢力均衝論から見る、安保法案と題してお送りしました。
次回は、シリーズの最後として、集団安全保障論の視点から安保法案を論じてみたいと思います。

皆さんみずから、日本の将来を考えていきましょう。


記事執筆・Mitsuteru.odo
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