国連総会に出席している安倍総理大臣と、ロシアのプーチン大統領がニューヨークで首脳会談を行った。
両者が顔を揃えるのは、2013年9月以来で2回目の会談となる。

読売新聞より
読売新聞より

その間、様々なことが国際社会を舞台に繰り広げられた。
日本は安倍首相による経済政策で株価の上昇、マクロ的な視点での景気回復。さらに安全保障の枠組みを強固にする法整備を整えた。

一方ロシアはウクライナ領のクリミア半島を武力行使によって支配し、国際社会の批判を招いた。
その結果、日本を含む欧米諸国からの経済制裁を受け、国際社会の監視の目はロシアに向いている。

さらにシリア内戦にも介入し、戦闘機や部隊をシリアに派遣する行動に出た。名目は対テロ戦を目的としているが、アメリカはアサド政権の打倒を目指し、ロシアはシリアの安定にはアサド政権の安定が必要不可欠だという立場を取っている。ロシアは冷戦が終結後も、ある意味キープレーヤーとして国際政治の主役級として大国を演じている。

日本とロシアは正直に申し上げて、良好な関係を築いているとは言えない。
むしろここ数ヶ月の外交情報によれば相当に関係は悪化している。
その中での首脳会談ということで日本やロシアのみならず、国際社会がその動向を注視していた。

その首脳会談を日本の大手マスコミはどう報じ、問題提起したのか。
今回は社説の注目ポイントを一部抜粋してお伝えする。


読売新聞
「首相は「経済協力の準備は建設的で静かな雰囲気で進めたい」と述べた。ロシアのメドベージェフ首相らの北方領土訪問が日露関係改善の障害になるとクギを刺したもので、当然の認識である。」
「ラブロフ外相らが過去の交渉を無視するような姿勢を見せるだけに、日本としては、絶大な権力を持つプーチン氏に直接働きかけることが重要となる」

現在の危機と今後の見通しをスマートにまとめた印象だ。欲を言えば、平和条約交渉を積極的に進めるべきか、慎重に見極めるべきかを明確にしてもらいたかった。
読売新聞としての考えが、まだ一致していないのかも知れない。平和条約に関しては続報を求めたい。

朝日新聞
「内戦の犠牲者や欧州に押し寄せる難民を減らすためには、地域に大きな影響力を持つロシアとの対話が重要な意味をもつ。オバマ米大統領がプーチン氏との2年ぶりの本格的な首脳会談に臨んだのはそのためだが、対立は容易に解けそうにもない」
「ここにきて、ロシアがシリアに積極的に介入しようとする背景には、ウクライナ問題から国際社会の目をそらすとともに、ロシアの発言力を高めようとする意図もうかがえる」

この社説は日露首脳会談のみを扱ったものではないようだ。一連のロシア外交について意見を述べたものと見られる。
まず、ロシアと国際社会の意見が一致していないことはここで再確認することができる。ただ、「ウクライナ問題から目をそらす」という点では疑問が浮かぶ。
国際社会はクリミア紛争を非常に重要視しているし、10月2日にはクリミア和平交渉が行われる。シリア介入はこれを踏まえたもので、ロシアからすればクリミアもアサド政権の維持も、ロシアは国際社会の中心的存在なのだと主張しているのだ。シリア介入がクリミアから目をそらせるという論調は納得できない。
また、シリア介入の問題に触れたのならば、朝日新聞独自の解決策を提示すべきではなかっただろうか。

産経新聞
「対話の継続を困難にしているのはロシア側なのだ。プーチン氏がこうした姿勢の転換を図らない限り、前進はあり得ない」
「首脳会談ではウクライナ東部の停戦状況について話し合ったが、首相はクリミア併合にも言及すべきだった」
「プーチン氏の「年内訪日」を急ぐときではない。領土問題に真摯な態度をとるか見極め、米欧との協調維持が重要だ」

問題提起と書き手の考え方をしっかり主張している印象だ。産経新聞は割と主張をハッキリさせているので賛否両論があるが、プーチン氏の年内訪日についても、「急ぐべきではない」としているし、日露関係の悪化はプーチン氏にあると、明記している。さらにクリミア問題に言及すべき、とした主張はまさにその通りだろう。

毎日新聞は現時点(9月30日)で日露首脳会談の社説を載せていない。

ここで重要な記事を紹介する。ロシアのスプートニクが日露首脳会談について報じている。
ロシアの日本専門家である、アナトリイ・コーシキン氏のインタビュー記事だ。要約して紹介すると、

「日露関係が悪化していることを認める」
「ロシアは平和条約と北方領土を関連付けていない」
「ロシアとしては日本の戦略を理解している。すなわち中国とロシアの接近を懸念していることは理解している」

これはクレムリンの意向を述べていると見ていいだろう。つまりロシアは日本の戦略や外交関係を俯瞰して、今回の首脳会談に臨んだ。そして「様子見」の色合いが濃い会談だったことから、日本の戦略を確かめて次の一手をを探るつもりなのだろう。
さらに重要なのは、「平和条約と北方領土を関連付けていない」という点だ。これがロシア政府の基本的な立場なのだろう。相手の出方次第で交渉術は変わってくるが、こうも露骨にメディアに発信することは、その意思が固い表れなのだろう。


北方領土のみの交渉を


以上のことを勘案して、日本未来マガジンの見解をまとめる。

1、平和条約と北方領土交渉を分けて考える
2、ロシア外交の罠にかからない
3、シリア問題に積極的に関わる
4、日本独自の役割を考える

まず1については先ほど紹介したスプートニクの記事にあるように、ロシアは平和条約を締結した時点で北方領土も解決したと判断する恐れがある。
それを防ぐため、北方領土の返還のみを交渉材料に使う。経済連携や制裁解除のカードもちらつかせながら、交渉を進めるべきだ。
安倍首相とプーチン大統領は、幸いにも比較的良好な関係を築いている。北方領土返還の道筋は、もはやこのタイミングしかないと思う。ロシアは日本の経済支援が欲しくてたまらないはずだ。日本はそのカードを平和条約締結のためではなく、北方領土返還のために使うべきである。

2はロシアの挑発に乗らないこと。ラブロフ外相や、ロシア高官の発言にいちいち反応しない。なぜなら一連の挑発的な発言は、国際社会や日本向けではなく、ロシア国内向けに発するものだからだ。

3については喫緊の課題であるシリア問題に日本がどう関与していくかだ。日本は対テロ戦に直接参加していないが、テロの危険に遭う恐れがあるという、矛盾する状況にある。
そしてシリアという地で、かつての冷戦時のような西と東に分かれて代理戦争をしている場合ではない。このような論調が世界中で駆け巡っているが、とんでもないことである。
テロという共通の相手がいるなかで、なぜ国際社会は一致した行動が取れないのか。そこを追及し、改善しない限り、シリアの安定は望めない。


日本独自のシリア介入シナリオ


最大の問題はアサド政権への対処だ。シリア安定にアサド政権は必要なのか?不必要なのか?欧米とロシアの溝はそこにある。
目的は対テロ戦である。そこは両者も一致している。

AP通信より
 AP通信より

あまり知られていないが、アサド政権は意外と強固な基盤があるとされている。独裁国家ながら国政選挙で選ばれた大統領であり、日本や欧米側が思うとおりに事は進まないだろう。実際そのような状況だ。
国連でシリアへの軍事行動をロシアが拒否権を行使し、欧米は有志連合として空爆を行っている。時間は掛かるものだが、成果は出ていない。
ロシアはシリア安定のためにアサド政権が必要だ、という立場の基、軍事介入の動きを見せている。

日本はどうすべきか?まず自衛隊の派遣は考えられない。
あるとすれば内戦終結後のPKO活動だろう。ここには積極的に動くべきだろう。リベラル派も普段から「世界平和」と叫んでいるなら賛成するだろう。

問題は今できることだ。

和平交渉のかじ取り役はできないものだろうか。何度も言うが対テロ戦が共通の目的なのに、代理戦争をしている場合ではない。
日本、アメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、イラン、トルコ、シリアの8カ国でイスタンブールやテヘランで和平交渉はできないか。
これを日本が働きかける。平和外交と胸を張って言えるし、中国、韓国のアジア諸国が対テロ戦に無関心の今、アジアの盟主として日本が動く意味は大きいはずだ。

今回の日露首脳会談は北方領土の解決に向けた強い決意を、安倍首相には語ってほしかった。
また、平和条約と北方領土交渉をセットで考えるのは非常に危険だ。ロシアはそんなつもりはない。平和条約を締結した時点で、北方領土交渉を打ち切る可能性がある。
今後の事務レベルでの協議を注視していきたい。

そして最大の懸念であるシリア問題は、日本が「平和的解決」に向けて関与していくべきだ。
対話によりシリアに安定をもたらし、IS(自称イスラム国)を排除する。日本はその役割を果たすべきであるし、求められているのではないだろうか。

積極的平和主義を標榜するのなら、ぜひ安倍首相にはその名の通り、積極的に平和を勝ち取る努力を見せてほしい。


記事執筆・Mitsuteru.odo
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