~この記事のポイント~

・テロリストに普通の外交交渉は通じない
・中東情勢に無関心でいられることが平和ボケ
・対テロ戦における軍事介入はどこまで必要か?


解決策はあるのでしょうか?


世界はテロとの戦いに苦しんでいるのが現状ですが、どのようなプランが一番正しい策なのか未だに定まっていないのが心配です。
まず断っておきますが、テロリストの対話はまずありえない。それは道徳的にも、それから国際法の視点で見てもありえないこと。テロ組織は国家ではありません。(ISは一方的に国家であると主張。確かに統治はしているが)今までの国家対国家の枠組みで定められた国際法ならびに国連の機能は、テロ組織への対策としては機能しなくなっています。

▼自らの目的達成のためにテロや攻撃を仕掛けるIS

IS
 
IS2


これを補完する国際的枠組みは残念ながら存在しない。各国が単独で国防や抑止のために、または地域の秩序のために動いているにすぎません。
有志連合の枠組みは以前からも使われてきましたが、国連や国際法の枠組みではなくあくまで有志。しかもそれは各国の利害が絡み合って、パワーバランスの維持に努める以外に効力はあまり発揮しません。

さらに心配なのは、テロに対する一致した政策を取れないことです。よく各国首脳は「テロを断固許さない」「テロに屈しない」と言いますが、(日本も含めて)テロ対策やテロリスト掃討のための有効な手段を持ち合わせていません。
それが現代の戦争の形であることを、どれだけの人が気付いているでしょうか?


何も知らないでは済まないところまできている

日本に住んでいてテロ攻撃に無縁(実際は危機は迫っている)な生活を送り、ましてやテレビニュースでも普段からテロに関する議論をやらない、または無視する現状では、日本人のテロに関する知識は皆無であると考えます。
日本で万が一、テロが起こった場合、それはパニックになることは必至です。まずマスコミはパニック報道を起こし、防ぎきれなかった政府を批判するでしょう。そして日本でも反イスラム運動が起こる恐れがあります。いずれもその発端は、普段からニュースをチェックせず、政治や国際情勢に無頓着ないわゆる無党派層が中心となるでしょう。(日本人の大多数はこれにあたる)

テロが起こる背景や、なぜ日本が標的になるかなど、これまで考えたことのない人々にとって、自国でテロが起こったときの衝撃は凄まじいものがあります。
かつて9.11のアメリカ同時多発テロで見たあの衝撃をほとんどの人が忘れているかも知れませんが、ISも元々はアルカイダ系で、あの9.11から現代まで繋がっていることを覚えておくべきです。

日本は70年前の敗戦から直接的な軍事的侵略は受けていません。(領土の侵犯や思想的な侵略は日常的に受けているが)
ある意味、それは驚くべきことですが、やはりそれはアメリカの抑止力が効いているのでしょう。それ以外に考えられません。
もし、日本でテロが起これば、戦後初の外国による攻撃と認定されるのです。(オウム真理教による地下鉄テロがあったが)
しかも相手は国家ではない。そのジレンマは計り知れないものがあります。

そして忘れてはならないことは、すでにそのような事態がニューヨーク、パリ、ブリュッセル、マドリードなどのような大都市で発生し、さらにボストン、ナイロビ、カイロなどの主要都市でテロ攻撃が相次いでいます。もはや他人事ではないことが明らかですが、日本ではどうも関心がないようです。

私は以前からこのブログで、日本人はもっと安全保障における危機感を持つように、と提言してきましたが、日本国民全体としてテロの脅威をどう見ているのでしょうか。
一番的外れな考えは、冒頭でも書いたように「まずは対話から」と主張する人達。
まず、基本的に対話とは外交のことであり、国と国との利害調整や対立はその外交の対話によって解決策を見いだします。ところがテロ組織は国家でなく、さらに外交機能はありません。相手は対話無しで攻撃を加えるわけで、対話の意思などありません。自らの目的達成のためにテロを用いて  屈服させることを目的としています。
そのような相手に対話をする?全く意味がわからない論理です。

では代案はあるのかと言われれば、確たる解決策はないのですが、一番有効なのは軍事行動でしょう。
恐らく、対話せよと主張する人達は軍事行動に批判的な人達であると思われます。
しかし、対話が通じない相手である以上、軍事的手段しか残されていないのです。通常の国家対国家での外交対話でも、ギリギリのところまで交渉して、決裂したら戦争に突入します。(それがシリアやイエメンで行われていることを覚えておきたい)
これが対テロ組織の場合、対話が抜け落ちて、攻撃を抑止するために軍事的手段に頼らざる得ないのが、現状です。

本当に難しい問題ですよね。この事態を招いたのは、アメリカの中東への消極的な姿勢であることは、かなりの確率で高いわけですが、オバマ大統領の気持ちもわかる。対テロ戦で疲弊したアメリカをこれ以上、対テロ戦に参加させたくないと思うのも当然です。ただそれが間違いであったことが、以下の記事によって証明されています。


4月15日
米軍 IS作戦に電子戦機投入
米欧州軍は15日までに、ISとの戦闘に向け、戦術航空機を新たに投入したと発表した。これまでより前線に近い位置でISの通信能力を攻撃できるようになるとみられる。発表によると、米欧州軍はIS掃討作戦を支援するため、米海兵隊所属のEA-6B「プラウラー」からなる飛行大隊をトルコのインジルリク空軍基地に派遣したとしている。プラウラーはISISの通信を傍受できるほか、ISISが保有するレーダーや通信機器を電子妨害することにより、同盟軍の地上部隊や攻撃機を保護することも可能。

4月19日
米軍 IS作戦にヘリ攻撃を採用
アメリカ国防総省はISに対する軍事作戦で、重要拠点の奪還を目指すイラク軍への支援を強化するため、作戦の助言に当たるアメリカ兵を増派するとともに、攻撃ヘリコプターを作戦に投入できるようにすることを明らかにした。
カーター長官は、地上作戦を担うイラク軍の助言に当たるアメリカ兵を増派するとともに、アメリカ軍の攻撃ヘリコプター「アパッチ」を作戦に投入できるようにすること、砲兵部隊を追加で派遣することなどを明らかにした。
アメリカ国防総省によると、増派するアメリカ兵は200人余りで、これに伴いイラクへの派遣要員の規模の上限を4000人余りに引き上げるということ。
ISに対する軍事作戦で、イラク軍は重要拠点モスルの奪還に向け態勢を強化しており、今回の増派によってアメリカ軍としても、より前線に近い場所でイラク軍への助言が可能になるとしている。

4月25日
米軍 シリアへ増派決定
ドイツを訪れているオバマ米大統領は25日の演説で、シリアへ米特殊部隊員250人を増派する方針を正式に表明する。米当局者2人が語った。
米政府高官はCNNに「オバマ大統領はこのところ、ISISと戦うイラク治安部隊やシリアの現地部隊などへの支援強化に向けて一連の措置を承認している」と指摘し、今回の表明もその一環だと述べた。


これらのニュースが、アメリカの方針転換なのか、ハッキリ言えるものではありませんが、少なくとも有志連合やロシアによる空爆でISは弱体化していることがわかっています。
このタイミングで立て続けに攻撃能力を上げていくことは、軍事戦略上当然のことだと思いますし、成果も出ていることからある程度の世論の支持も期待できます。
やはり対テロ戦において重要なことは、ある程度の軍事介入は絶対的に必要であり、テロリストの拠点を認識しているのなら、空爆はやむなしでしょう。
世界各国の情報機関はISやアルイカイダが次の大規模テロをどこでやるつもりなのか、必死になって情報収集をしています。それを未然に防ぐ抑止のためにも、最低限の軍事介入は必要でしょう。
そして空爆で戦闘員の多くが殺害されていますが、それがIS戦闘員の士気を低下させて、ISから離脱するということが実際に報告されています。軍事介入することが悪だという間違った指摘には騙されないようにするべきです。


ISは他の過激派組織と違い、当初は欧米各国への大規模テロをやるより、イラク・シリアを「イスラム国家」にするためだけに目的を絞り、ある意味スマートな運営をしてきました。
外国からの戦闘員を募り、SNSを利用し、宣伝やリクルートに力を入れ、占領した地域を統治するという、今までのテロリストがなし得なかったことを実際にやっているのです。
ということは、IS掃討を計画している各国はただ単に空爆により戦闘員を倒すだけでなく、ソフト面の攻撃にも力を注がなければなりません。
豊富な資金源を押さえ、電力・水道などのインフラ設備、武器供与の遮断、通信妨害など、現代の新しい戦い方を模索していかなければならないでしょう。


これまでのようなテロへの報復としたむやみな空爆から、多角的にISに対して攻撃を加えることが重要なポイントになります。
テロ攻撃の防止は情報機関の情報度によって、左右されますが、テロリストへの攻撃によって抑止は可能です。
相手は国家ではなくテロ組織ですが、見方を誤ってはいけません。


日本は北朝鮮のミサイル警戒で、大変な事態を迎えていますが、伊勢志摩サミットの成功に向けてテロ対策を万全なものにしなければなりません。
有志連合やロシアのIS掃討作戦に頼るしかないのが、日本の情けない現状ですが、致し方ありません。
最後に付け加えておきますが、平和なイメージだったデンマークでもIS作戦への強化を発表していますし、先ほどの米軍の増派にしろ、世界的にISの掃討に向けた動きが強まっています。
それはシリア・イエメンの和平にもつながるのですが、平和の実現のために世界各国は身を削り、リスクを負いながらも、介入しています。
対話が通じない場合や、外交が決裂した場合、戦争になるのは常識的なことです。平和の実現には痛みを伴うのです。
日本人もそれに、気付くべきではないでしょうか。


古川 光輝

政治フリーペーパー「JAPAN IN THE WORLD」

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