2016年91  古川 光輝

 

 

大使館爆破の詳細

 

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キルギスの首都ビシケクにある中国大使館でテロ事件が起こった。爆弾を積んだ車が門に突っ込み、自爆した模様。運転手が死亡し、キルギス人の大使館職員が負傷した。

中国大使館はビシケク南部にあり、米国大使館の近所である。爆発があったのは午前9時半ごろ。灰色のキノコ雲が上がり、爆音は市内のほぼ全域に響いたという。爆発で大使館の壁が崩れた。運転手の遺体の一部は爆発地点から約600メートル離れた場所まで飛んでいったという。

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テロを実行した自爆犯はこの車の運転手であったことが明らかになっている。地元のビシケク警察筋はAFPの取材に対し、三菱自動車の乗用車「デリカ」が同日朝、大使館の門を突き破り、大使公邸に近い中庭の中央部で爆発したと説明した。

AFP通信 http://www.afpbb.com/articles//3099103?pid=18246704&page=1

 

キルギス外務省の発表によると、アブディルダエフ外相は中国の王毅外相と電話で会談し、当局が中国の外交官の安全を確保するために必要な措置を講じると伝える。

 

キルギスのジェニシュ・ラザコフ副首相「爆発によって死亡したのは自爆犯のテロリストだけだった」と記者団に語った。

 

中国外務省の華春瑩副報道局長は今回の事件について「中国側は非常に驚いており、こうした極端な暴力行為を厳しく糾弾する」コメントした。中国側はキルギス側に全容解明を求めている。

 

 

 

テロ攻撃は十分想定しておくべきだった

 
 

私は何度もこのブログや、前ブログ「日本国際問題マガジン」にて指摘してきたが、もはやテロ攻撃は全世界で警戒すべきレベルにまで、その危機は高まっている。

(参考記事 「日本人の国際情勢の無関心 もう何も知らないでは済まされない」)

http://japan-in-the-world.blog.jp/archives/1056517865.html

 

イスラム原理主義者(過激派)は米国を憎み、ニューヨークでの同時多発テロやボストンマラソンを狙った無差別テロで国際社会を震撼させた。その後、アルカイダの特徴である大規模テロに変わり、タリバンの復活やISの台頭で、シリアやイラクを中心に小規模なイデオロギーを剥き出しにした、卑劣な暴力行為が中心となった。

 

一方でISは暴力によるカリフ制国家樹立の目標のためにテロ攻撃を活発化。攻撃はヨーロッパにシフトし、パリ、ブリュッセル、イスタンブールに大規模な無差別テロを実行した。そして、イスラム教徒が多い東南アジアの過激派組織へのネットワークを生かし、協力を求め、バングラデシュの首都ダッカでもテロ攻撃を実行した。そして今回のキルギスで起こった中国大使館爆破である。

 

今回の記事は特定のテロリストを取り上げたものではない。テロ攻撃を企て、実行する全ての過激派組織目線を向けたものである。中国に関して言えば、十分にテロの可能性が予想できたはずである。中国は南シナ海、東シナ海での違法な活動が目立つが、新疆ウイグル自治区住民への弾圧は何年も前から問題視されてきた。つまり中国は「敵が多い国」なのである。

 

ウイグル族はイスラム教スンニ派の民族で、13世紀にかけて中央アジアに展開した遊牧民であると定義付けされる。中国国内に最も多く存在し、カザフスタンやウズベキスタン、そして事件のあったキルギスにも多くのウイグル族が存在する。

 

しかし現在の新疆ウイグル自治区は漢族の入植が進み、中国人民解放軍の人員を含めると、ウイグル族よりも割合が多いことがわかっている。現在、ウイグル族は東トルキスタン共和国樹立のために、中国からの分離独立を画策している。現代史眺めているとソ連やユーゴスラビアの例見るように、独立運動が活発化した時期があった。独自の文化と所属する国家との宗教の違いは最大限に尊重されるべきである。中国は共産党政権という独裁的な政権であることから、分離独立には相当なアレルギー持っており、ウイグル族を武力により弾圧する行動に出ているのは周知の事実であった。

 

2015年にタイのバンコクで起きた連続爆破テロは、亡命を目指していたウイグル族109人が強制送還されたことへの報復だとされている。実際に過去にこうした大規模なテロ攻撃がなされたことをしっかり認識しておけば、中国を標的としたテロの可能性も予想できたと言える。問題は中国の治安当局や諜報機関、ならびにキルギスの治安当局が、事件を防ぎきれなかった点である。治安当局と諜報機関は国家を守ること最優先の任務とする。日本の当局も、もう一度危機感を高めるべきである。

 

 

世界は危険で溢れている

 

 

 キルギスの武装勢力とISの関係についてだが、どうやら緊密な関係を持っていることはないようだ。しかしキルギスにはイスラム過激派の「ヒズブ・タフリール」という過激派が存在する。2006年に活動を禁止されてきたが、タリバンやアルカイダと緊密な関係だったことが明らかにされている。今回の犯行がその組織に属する者なのかは不明だが、可能性としては十分にあり得る。その場合、ウイグル人による中国政府への反発よりも深刻な事態であると言える。

 

特筆すべきはキルギス人約500人がイラクやシリアでISと戦うために出国した経緯があることである。ISからしてみれば、ISを味方しない者は全て「十字軍」とみなして、攻撃の対象とされる。そのため、キルギス政府はISによる攻撃の脅威に直面していると危機感を示していたのだ。まさにその通りになってしまった。防ぐにも防げないのがテロ攻撃である。

 

 従来の戦争は攻撃に至るまでに、様々な兆候が目に見えてわかるはずだった。外交が決裂して、戦争をせざる得ない状況に追い込まれ、戦闘状態に入るケースがこれまでの戦争に多く見られたが、テロは予告なしに、無差別に民間人の命を奪う卑劣な犯行だ。まさに殺人事件の「通り魔的」犯行であり、言い換えれば巷で起こる「殺人事件」も「テロ」と認定されてもおかしくないのである。

 

 何度も言うが、テロは何もイスラム過激派だけの犯行を意味するものではない。反政府組織や個人であっても、武装し、民間人を無差別に殺害する行為は、今の時代で言えば全てがテロと認定することが可能なのである。

参考記事 「仏・ニースのトラック突入テロ 日本人が頭に入れておくべきテロの恐怖」

http://japan-in-the-world.blog.jp/archives/1059319682.html

参考記事 「外国人戦闘員の帰還とホームグロウンテロの危険性」

http://japan-in-the-world.blog.jp/archives/1056563752.html

 

 以上のことを頭に入れておけば、世界はテロの脅威に対してどう向き合っていけば良いか考えるきっかけになるのではないだろうか。テロリストはISだけではないが、例えばISは日本を「十字軍」の一員だと認定している。日本は自衛隊をシリアやイラクに派遣していないし、武力行使を伴うテロとの戦いに参加はしていない。しかし米国の同盟国であり、多額の中東支援を約束していることに対してISは反発しているのだ。

 

 そして「危険な地域に出歩かないことが一番の予防策」といったような夢物語は現代では通用しない。実際、日本人に人気の観光地であったパリやブリュッセル、イスタンブールでもテロは起こっている。そのなかで邦人の旅行者が巻き込まれなかったことは奇跡である。

 

 日本国内でもテロの可能性は十分にありえる。イスラム過激派だけでなく、反日団体、反政府団体による攻撃や、ホームグロウンテロ、ローンウルフ型のテロにも警戒が必要だが、残念ながらその全てを実行前に摘発することは、日本の諜報レベルでは不可能だろう。ただこれらの認識を理解していれば、ある程度の心構えはできるはずである。日本人に足りないものはそこなのだから。「平和ボケ」というものがいかに国をダメにするものか私は改めて実感した。若い世代の皆さんには、今回の中国大使館爆破テロをきっかけにテロが身近にあるものだと認識してほしい。

 
 

(古川 光輝)
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「NOW! TIMES」

 


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