国連総会第1委員会(軍縮についての委員会)は27日、「核兵器禁止条約」制定交渉開始を定めた決議案を賛成多数で採択した。核兵器を国際的に非合法化することが目的で、国際社会の法的枠組みで核兵器を全面的に使用禁止にすることを目指す。
初の「核兵器禁止」へ
この決議はメキシコやオーストリアなどが主導して発議された。のべ55カ国以上が共同提案し、年内に総会本会議で採択され、正式な決議となる見通し。核兵器を法的に禁止する枠組みについて、本格的な議論が行われることは意外にも初めてのことである。
条約案には核兵器の使用禁止などがメインテーマであり、核抑止力を中核とする国際安全保障体制に影響を及ぼすのは必至である。条約の具体的な中身や、来年3月に始まる条約交渉に日本が参加するかが今後の焦点となる 。日本や核兵器保有国など38カ国が反対し、中国など16カ国が棄権した。核開発を進める北朝鮮はなぜか賛成している。
日本が反対した理由
日頃から「核廃絶」を訴えている日本は反対に回った。世界で唯一の被爆国でありながら核兵器禁止の条約案に反対するのはなぜだろうか。被爆者の反発は必至だ。
委員会に参加した日本の佐野利男軍縮大使 は記者団に次のように説明している。
「実効的な核軍縮は核保有国と非保有国の協力の下で進める必要がある」
反対した理由については
「意思決定のあり方に国際社会の総意を反映させてほしいと主張してきたが、反映されていなかった」
これは表向き、国民への配慮を込めたコメントである。本心ではない。
萩生田官房副長官も記者会見で
「慎重な検討を重ねた結果、反対票を投じた。北朝鮮などの核、ミサイル開発への深刻化などに直面している中で、決議は、いたずらに核兵器国と非核兵器国の間の対立を一層助長するだけであり、具体的、実践的措置を積み重ね、核兵器のない世界を目指すというわが国の基本的考えと合致しないと判断した」
何とも言えない説明である。誰でもわかることだが日本が反対した理由は「核の傘」を維持しなければ日本を守れないと判断したからだ。至ってシンプルな理由であり、このように説明したほうが良かったのではないだろうか。現代の日本人は核の傘によって日本の国防が成り立っているという現状を正しく理解できていない。北朝鮮が国際社会から軍事攻撃を受けないのはなぜだろうか?それは北朝鮮が核兵器を保有しているからだ。(正確には開発段階。しかしほぼ保有国ともいえる)
北朝鮮が今回の決議案に賛成したのは米国を含む核保有国が核を放棄すれば、自国に核攻撃を受ける可能性が消えるからである。つまり抑止力を均等に維持できるからである。一方で日本はどうだろうか。北朝鮮や中国が核兵器を保有している現状で、核の傘を簡単に離脱していいのだろうか。日本自ら先制攻撃できないなか、国防の要である抑止力を放棄することは国民の命を危険にさらすことにつながらないか。感情的になり、勢いで容易く賛成に回る事柄ではないことを理解してほしい。そして政府も正直に以上のことを国民に問いかけるべきである。
日本人が一生抱えるジレンマ
しかし、広島・長崎に投下された原子爆弾の記憶を我々日本人は決して忘れてはならない。世界で唯一の被爆国の現代を生きる我々はどのような判断を政府に求めるべきなのだろう。特に被爆者の気持ちを考えたとき胸が張り裂ける思いである。記者会見で関係者のコメントが発表されている。
国際NGO・ICANの川崎哲国際運営委員
「驚くとともに憤りを感じている。日本は核のない世界を目指すという目標を掲げておきながら、核兵器禁止条約の交渉を拒否した」
日本被団協の代表委員・岩佐幹三さん
「怒り心頭だ。今の日本は欧米に追従するするばかりで、核兵器がない時代を築こうとする覚悟がない。これでは原爆で亡くなった人が浮かばれない」
確かに気持ちは理解できる。被爆という悲劇を洗い流すことはできないが、被爆者が報われるためには核兵器がこの世からなくなることが絶対だ。しかし理想と現実は異なる。その理想に近づくために多くの時間が必要であるし、核兵器をなくすための環境を国際社会は作っていかなければならない。そのためには現状のあらゆる課題をクリアしていくしかないのだ。
このジレンマは、我々日本人に付きまとう一生の課題だろう。今こそ日本国民を巻き込んで大きな議論を起こすときである。
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