
サウジの失敗からの教訓
今や戦争、紛争時の戦闘の代名詞となるのは、「ミサイル攻撃」である。戦闘の始まりや突破口となるのもミサイル攻撃であり、ミサイル戦略で優位に立った物が、その後の戦局も優勢に運ぶことになる。かつての戦争のように戦闘機や爆撃機による空中戦の時代は終わり、昔、映画に描かれたような遠隔操作によるドローン攻撃、ミサイル攻撃、サイバー攻撃が戦争の主流になっている。
イエメン紛争はイエメン政府軍とフーシ派と呼ばれる反政府武装組織との戦闘にサウジアラビアが軍事介入し、事態は複雑化した。サウジは政府軍を支援する名目でアラブ各国に協力を呼びかけ、UAEやカタールなどが呼びかけに応じた。米国はサウジに武器を売却し、空爆にも手を貸した。一方のフーシ派にはイランが後ろについている。
ここでは地政学的な分析はせず、サウジの戦い方とミサイル防衛の失敗について言及する。もちろん日本の国防のためにである。
サウジは当初から空爆を中心にイエメンを攻撃していた。地上戦になれば多くの戦死者を出してしまう世論を恐れたためだ。その時点で国民の理解を得られていない証拠であり、ただサウジ王家の威信を示すだけの無駄な戦争だったということである。
戦争を優位に進める上では空中からの攻撃で打撃を与えるのが有効だが、最終的な完全勝利となれば地上部隊を送らねばならない。それはベトナム戦争でもそうだった。圧倒的な空中火力でベトナムの森林と人々を焼けつくしたが、上陸した米軍はジャングルに潜む北ベトナム兵を打ち負かすことができずに撤退した。
サウジの失敗は爆撃だけに頼り、精鋭の地上部隊を送り込む覚悟がなかったことである。

ミサイル防衛失敗は日本にも直面する課題
そしてサウジのミサイル防衛にも疑問符が付くことが多かった。我が国のミサイル防衛にも影を落とすかも知れない。
サウジは自国の空港に多くの攻撃を受けている。その中でも南部のアブハ空港では何度も攻撃を受けている。しかしここまで同じような攻撃を防御することはできなかったのか?
サウジが運用するミサイル防衛は日本も導入している米軍製パトリオットミサイル(PAC-3)である。
空港攻撃の情報収集の精度が悪かったのか、PAC-3を用いても迎撃できなかったのか、詳細は不明だが、これは日本の国防体制にも影響を与える。フーシの攻撃成功は当然イランに報告されているし、イランから北朝鮮、さらにはそこから中国に詳細な分析結果が届いているかも知れない。
PAC-3の弱点をロシアも中国も分析しているので、こうした実戦データはノドから手が出るほど欲しいだろう。日本の防衛当局は深刻に捉えているだろうか?
ただし、サウジと日本の違いもある。最大の違いは「兵士の技量」である。ご承知の通り、自衛隊の個々の能力、武器使用技術、組織力や規律は世界でもトップクラスである。もちろん防衛システムの運用も国民は100%信用していいと思う。
一方、サウジ軍の兵士の能力とミサイル防衛の知識はとても信頼できるものではないらしい。イエメン紛争においてもエジプト軍や南アフリカ軍のような経験豊富な軍と違い、地上戦での成果はほとんど見られない。
そして何よりPAC-3の操作に熟練した兵士がいなかったらしい。米軍が訓練要員を派遣し、前線指揮のための指導もしているのだ。それではイランに鍛えられたフーシのミサイル攻撃を迎撃できないのも頷ける。初めから兵士に戦う意欲もなく、士気も低かったのではないか?と思わせる報告である。
自衛隊とサウジ軍を同列に考えてはならないが、日本の敵は中国である。フーシとは比べ物にならないほどの攻撃力と弾薬、ミサイル数を誇る。今にも暴発しそうな大きな国家と海を挟んで対峙していくのである。
自衛隊の技量は間違いない。一部の自称平和主義者と中共の協力者以外のほとんどの国民は自衛隊を信頼している。もう一度PAC-3の精度を確認すべきだろう。
ミサイル攻撃から日本国民を守るために
当面の仮想敵国(日本を攻撃してくる国)は中国、北朝鮮だろう。しかし改めて考えてみるとこの2か国に対峙する島国日本...とんでもない地政学の物語の中に我々は生活している。しかも裕福で何不自由のない生活を送ることができる民主主義国家。私たちは改めて先人たちに感謝する必要があるだろう。
そんな祖国と国民の命を守るために、私たちが国に求めることは国防体制をしっかり再点検することだ。ミサイル防衛は簡単に成立しない。段階を踏むことで防ぐことができる。そのひとつだったイージスアショア(地上イージスシステム)を断念した政府は洋上や艦艇による新イージスシステム導入を目指している。
イージスシステムによる早期発見でどれだけの命が助かることか。ミサイル防衛はその意味では迎撃そのものよりも情報収集がカギを握る。しかし洋上でも艦艇でも、それは海の上。敵に狙われやすいのは当然で、その部分での不安はある。
日本のミサイル攻撃は2段階である。大気圏外(宇宙空間)で撃ち落とすのが海上自衛隊のイージス艦から発射されるPAC-3である。そして撃ち落とせなかった場合、大気圏から突入してくるミサイルを迎撃するのが航空自衛隊が運用する地上のPAC-3である。各地の自衛隊基地に配備されている。



(防衛白書より 中国の核戦力およびミサイル戦力について 令和2年度防衛白書p.61-63)



(防衛白書より 中国の核戦力およびミサイル戦力について 令和2年度防衛白書p.61-63)
北朝鮮の核兵器を積んだ弾道ミサイルや中国の巡航ミサイルが標的となるだろう。問題は中国の撃ってくるであろう巡航ミサイルが複数体、それこそ10発以上同時に撃たれた場合、完全に撃ち落とすのは困難なのではないか?という不安がある。
自衛隊は警戒を怠らない。先日2月2日にも愛知県春日井駐屯地で、PAC-3の迎撃訓練が行われた。米政権がバイデン体制となり、北朝鮮が挑発として弾道ミサイルを撃つ可能性があるからだ。このような情報収集もまた重要になってくる。
自衛隊は警戒を怠らない。先日2月2日にも愛知県春日井駐屯地で、PAC-3の迎撃訓練が行われた。米政権がバイデン体制となり、北朝鮮が挑発として弾道ミサイルを撃つ可能性があるからだ。このような情報収集もまた重要になってくる。
それこそ情報収集と判断力、即応性が問われることになる。敵ミサイル発射後は総理大臣の判断を仰いでいては遅いので、現場の自衛隊の判断で迎撃することが法で定められている。だからこそ、自衛隊の能力が試されることになる。
今、この瞬間にも24時間休みなく監視体制を続けている。そうしたことが行われているからこそ、我々の生活は成り立っている。どの仕事でもそうだが、人が知らないところでの努力の継続で人々に感謝や喜びを与えられる。自衛隊はその最たるものであり、国民の命を守る責任は非常に重く圧し掛かるが、その責務を果たしてほしい。そして我々一般国民は、日々のワイドショーで語られるどうでも良い、世の中に何の役にも立たない議論よりも、なぜ日本は戦後70数年、戦争を回避でき、一人も国民に戦争による死者を出さなかったのか、それを少しは考えるべきだろう。

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